『あのこは貴族』
山内マリコ
2022年10月2日 生田 <参加者7名>
*良く言って平成の『細雪』ともいえるが、記号としての「東京」「慶応」「地方」だけが描かれているようで、率直に言って「なんだこりゃ」という印象。
私事になるが私も慶応出身で内部生の友達もいた。
私の時代は学生運動ばっかりで本来の慶応は知らないのかもしれないが、文学部では女性が多くそれもお嬢様系の高校出身者が多かった。同級生に魅力的な女性が一人いて、毎日車の送り迎えで学校に来ていた。後で聞いたらある有名ホテルのオーナーのお妾さんの娘さんだったということである。この作品の華子の住む世界を読んで、そんなことを思い出した。
あと違う視点であるが、前の芥川賞の作品もそうだったが「セックス」に関する扱いがあまりのも軽い(軽くスルーするな)という感想。最近の小説はみなそうなのだろうか。
(R・男性)
*すごく感心共感したのは、地方から出てくる女性(美希)と自分とすごく被るなということ。読み進むうちに深く自分と重なってしまった。時代は違うが、美希が東京で何とか必死に生きようとする姿は、地方から来た私も同様だった。
でも個人的にはとても楽しく全てがキラキラしていた。(東京で初めて食べたクロワッサンの味が今でも忘れられない。)
華子の友人が語る、近松の『心中天網島』の比喩のセリフのくだりは見事。「みんな傷つかない」こういうのが私は大好き。
(N・女性)
*面白かった。
題名から(我々とは)ちょっと違った世界かなとは思って読み始めてみたが、要は格差、階級からは逃れられないということなのかなと思う。最後に華子さんが自由になるというところでホッとしたという印象。
私も地方から東京に出てきたが、当時は生活は苦しく大変だったが、親から解放されたという自由感一杯で、舞い上がっていた。
(U・男性)
*すんなり気持ちを入れて読むことができた。
作中で華子は「結婚すればなんとかなる」と思っていたが、私も別の立場ではあるが共感。思い描いたことを実現しても、現実はかなり違うなと最近強く実感している。
(N・女性)
*私は東京生まれで、かと言いて上流階級でもないので、どこにも感情移入する所がなくドラマを見ているようにさらっと読んでしまったというのが印象。
大学のころ地方から来た友人から「彼氏について(興信所で)調べた?」聞かれて(家族がそんなこと調べるんだ)驚いたことを思い出した。
(O・女性)
*私はこの作家が嫌いだった。なんというかヒステリックなまでの地方女子の劣等感を描く作品が多く、正直もういいかと思っていたが、昨年この本作の映画があまりに素晴らしい出来だったので、改めて原作を読み直した。
好感を感じたのは、前の様なヒステリックさが薄らいだことと、全体的に交戦よりも融和を通じて物語を進めていること。(これは昨今の小説の傾向でもあるが…)
でも、やはり饒舌ではあるが人物の描き方が薄っぺらい。映画の登場人物が光っているのは、今回のこの原作の言葉よりも強かった映像と役者の力だということを実感した。
(K・男性)
*ざっくり人の描き方が一面的すぎないかという印象。
ひとつには、全体の説明的展開だと思います。
「華子は器量よしで家柄もよいが」
「初対面で恋に落ちてしまった華子は」
「一方的に縁を切られた幸一郎は、逆に美紀への執着を見せるようになってしまう」
私はあらすじを読んでいるのだろうか?としばしば思いました。登場人物の心情を一言で説明してしまうと、読んでいる側は興ざめするというか。
説明するなということではなく、説明するならもっと深くしてほしい。
橋本治の小説では説明が長くても、多面的でこちらの知らない情報が彫り込まれていくので、おもしろいのです。
おもしろいところもある。アップル嫌いのiPhone持ちの描き方とか、こういうのをもっと読みたかった。
華子に爪を噛む癖があるのなら、それをもっと後半でも取り上げてきっかけになるとか、ストーリーとしての深さや広がりはもっとできたろうにと思います。
(U・女性)
*辛かった。
ここで描かれるハイソな世界には正直「エウッ」という嫌悪感。個人的なあまりにも類似した辛い体験(内容は略)から、この世界が大嫌いということもある。
しかし、第二部で美希の登場により、この嫌悪感を何らかで逆転させ、納得させてくれるかと思いきや、そうでもなくあっさり終わってしまったのが残念。
(K・男性)