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『同士少女よ敵を撃て』
逢坂冬馬
2022年11月26日 吉祥寺 <参加者5名>
参加者総合評価 ★★★☆☆
とにかく面白かった。
戦記モノはややもして、マニアック的な煩わしい知識だけが前に出て、至極読みずらいものが多々あるが(それを楽しむ読み方もあるのだが…)、この小説はそう言った、ある意味オタク感な煩わしさをまったく感じさせず、素直に楽しめた。
だからと言って、この作家の知識や思弁が軽いという訳ではない。事実、主人公の少女がスパイナーとして成長する過程で、スコープを通して敵と向かい合うその数ミリを争う技術的なやり取りの息詰まる描写は、息使いが聞こえるほどの緊迫感がある。登場人物の個々の人物描写もさりげないようで深い。旧ソ連の様々な出自を持つ少女たちはそれぞれにそれぞれの信念で戦場に相対している。すでにこの時点でこの国の持つ複雑な民族性と、戦時下における女性の非常に曖昧な立場であることの意味を投げかけている。
要するに非常に「読ませる」ことの長けているのだ。この作品がデビュー作とは信じられないほど洗練さである。少女の戦士としての息詰まる進展と、その成長と共にこの小説で作者が語りたかった「真のテーマ」に読者を導いていく手腕も見事である
ただ、個人的な難点を言わしてもらうと、最後の最後で、彼女たちスナイパーの存在を戦後の国際的な反戦イデオロギーとかなり克明に絡めて語る記述は少し煩わしかった。もちろんそれが作者の最も語りたかった部分は分かるのだが、私としてはこの物語のラストは、主人公が最後の「敵」を狙撃した場面で終わりにして欲しかった。この場面で彼女の取った衝撃的な決断と葛藤だけで、充分に作者の語りたかったことは理解できるのであるから。ちょっとそれが残念だった。(K)
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